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小澤の不等式における「誤差=0」の意味するところ。。。
前回、前々回と、小澤の不等式について、長谷川氏の中性子スピンの計測実験に関する記事を基に少しばかり投稿したが、本質的な問題の意味するところに気が付いたので、別に投稿することとした。
前々回:小澤の不等式とスピン。。。
http://jinen.exblog.jp/17654143/
前回:小澤の不等式とスピン-その2-標準偏差:σは無限大にならずに済むのか?。。。
http://jinen.exblog.jp/17684183/
問題点と今までのまとめ
【1】.標準偏差の無限大への発散
小澤の不等式上では、誤差と擾乱の片方ないし両方を「ゼロ」へと収束させることが可能。両方を「ゼロ」へと収束させようとすると、自ずから標準偏差(最近、マスコミでは「ゆらぎ」と表記されることが多い)は無限大へと発散させざるを得ない。小澤氏の論文中にも、そのことは明確に記載されている。
【2】.ハイゼンベルクの不等式での無限大の意味とケナードの不等式(不確定性関係)での無限大の意味
小澤氏は、ハイゼンベルクの不等式にて、たとえば「位置の誤差・擾乱」と「運動量の誤差・擾乱」の片方がゼロになったとき、「他方は無限大になる」ことを避けることを一つの目的とし、不等式を組みなおしておられる。しかしながら、組みなおされた不等式では、【1】に記述しているように、ケナードの不等式での「位置の標準偏差」と「運動量の標準偏差」が無限大へと発散することを許している。
 このことについては、以前から指摘してきている事項であるが、「標準偏差」ないし「ゆらぎ」という概念を「実在しない、計測できない数学上の概念」として切り捨てるなら、いわゆるコペンハーゲン解釈を行っているのと同等になり、「標準偏差」ないし「ゆらぎ」という概念を「実在し、(すでに)計測されている」として取り込む場合にには、いわゆる多世界解釈を行っているのと同等になってしまう。
【3】.長谷川氏の実験系では、「1/2の中性子のスピン」を扱っておられた。1/2のスピンは磁場方向(たとえばx軸)に対し+1ないし-1(※1)のどちらかに分離する内部状態で、複素数を含む内部の空間にて磁場方向に対し傾いている。すなわち、磁場方向(たとえばx軸)に対するyz平面内の「どこか」にスピンの軸が向いている。この「どこか」が「ゆらぎ」に相当する。
※1:h/(2π)の1/2を単位としたときの大きさ
 この「ゆらぎ」は、x軸に対するyz平面内での(位相)角度なので、0から+2π(あるいは±πとしてもいい)の範囲として記述されるが、実際には+Nπ(N:自然数、無限大を含む)が加算されていても問題ない角度である。というよりも、x軸方向のスピンの向きを決定した直後、直行するyz平面内でのスピンの向きは、(ハイゼンベルグの不確定性原理とは異なる)ケナードの不確定性関係のため不定となる。長谷川氏の実験結果にても、x軸方向の誤差がゼロの場合には「yz平面内に均等に分布している」状態が現れている。内部空間でx軸に対するスピンの「向き」が「誤差ゼロ」というのは、yz平面での位置(角度)が「ゼロから無限大」すなわちθ+Nπ(-π≦θ≦π、N:自然数)の「どこか」に位置しているのと同等であろう。ただし、スピンの「向き」としては最大±π、すなわちy軸方向に+1か-1という値であるとして扱いうるということである。
 さて、スピンというものを粒子の自転の概念でとらえることは本質的に誤っているが、スピンは角運動量という概念であり、ハイゼンベルグの不確定性原理でいうところの「位置と運動量」に対し「角度(スピンの向き)と角運動量(スピンの大きさ)」という関係として捉えるべきものである。
 また、x軸に対するスピンの向きは、磁場にて決定されると書いたが、その大きさ(角運動量の大きさ)は磁場強度に比例する(※2)。そうして、(「実際には回転していない」にも関わらず)yz平面内を角速度:ωで回転しているとするなら、ωはスピンの大きさに比例している。x軸方向でのスピンの「向き」(角度)を正確に(誤差をゼロに)近づけようとするなら、磁場強度を上げざるを得ないだろうから、yz平面内での回転速度(角運動量)は増加していくだろう。磁場強度はどこまで上げれば「正確な」値が得られるのだろうか?
※2:「スピン角運動量の大きさ」は、通常「h/(2π)の1/2」であり、磁場強度の概念は入っていない。しかしながら、磁場強度をBとしたとき、ω∝Bという磁場に比例する角速度:ωがラーモアの歳差運動という概念にて定義される。この場合、E=hν=h/(2π)×ν×(2π)=h/(2π)×ωという式にて表されるエネルギー:Eの放出・吸収によって、スピンの向きが+1と-1との間で入れ替わることになる。運動量の概念はエネルギーの概念を速度で割ったものである。ωで割ると「スピン角運動量の大きさはh/(2π)の1/2」と元に戻ってしまうが、ド・ブロイ波では光速:cで割っている。おなじように光速:cで割ると、「角速度:ωの大きさに比例するスピン角運動量」という概念が成り立つだろう。←専門家の方、ご指摘いただけましたら幸いです。


【まとめ】
 いずれにしても、片方を「ゼロ」にしようとすると、他方に「無限大」という概念が現れる。たとえハイゼンベルクの不等式を否定できても、ケナードの不等式には残り続けているし、小澤の不等式は積極的に「無限大」の概念を利用した式でもある。

【さらなる思考】
はたして、誤差ゼロとか擾乱ゼロといった概念は、成り立つのであろうか?
このことは、まさしくゼノンのパラドックスに該当し、「飛んでいる矢」に対する考察と同等であり、可能無限と実無限に該当している。
ゼノンのパラドックスと可能無限と実無限の概念については、下記を参照ください。
知には限界が無いゆえ限界がある。。。
http://jinen.exblog.jp/593874
数学屋のメガネ・2006年03月03日・実無限と可能無限
http://blog.livedoor.jp/khideaki/archives/50464188.html

すなわち、時空間を無限分割可能だとする前提条件があるからこそ「誤差ゼロ」とか「擾乱ゼロ」へと収束させることが可能だという議論である。したがって、本質的に「標準偏差:無限大」という概念を消し去ることができないばかりか、積極的に導入することで、小澤の不等式は成立しうることになる。
ところで、時空間が無限分割可能ではないという概念も、実のところ思索されている。たとえば「ループ量子重力理論」である。時空間に最小単位があるという考え方なので、最小単位分の「誤差」と「擾乱」が担保されていると考えるなら、ハイゼンベルクの不等式でも「無限大への発散」は生じないのではないだろうか?
by kisugi_jinen | 2012-02-07 04:48 | 思考。。。 | Trackback(3) | Comments(0)
Tracked from 来生自然の。。。 at 2012-02-15 02:33
タイトル : 小澤の不等式。。。長谷川氏の実験結果の意味するところ。。。
仕事の片手間に考えてるので、断続的にしか進まないが、日経サイエンスでも引用されている長谷川氏の実験結果の図には、深い意味が隠されていることに気が付いた。 図にプロットされた誤差と擾乱のカーブが上に凸の形状を成していることである。 これは、一連のブログ投稿の最初に書いたことでもあるが、非常に重要な事実である。 下に凸、いや、双曲線であったなら、ハイゼンベルグの不等式を否定できないという事態に陥る危険性すらはらんでいるが、それだけではない。 「双曲線でない」ということは、「小澤の不等式...... more
Tracked from 来生自然の。。。 at 2012-03-22 03:20
タイトル : 小澤の不等式が成立しえない場合。。。日経サイエンスの記事..
日経サイエンス4月号を2週間前だったか、入手した。 しばらく仕事が忙しくて鞄に放り込んだまま、ほとんど読むことがなく過ごしていたが、少しばかり時間を作ることができたので、懸案の標準偏差:σの扱いについて考えてみることにした。 長谷川氏の実験結果に関する図が掲載されていたが、小澤の不等式において標準偏差:σ(紙面では「ゆらぎ」)がどのように扱われているかに関する記述がなく、非常に残念だった。(日経サイエンスに「金返せ!!」と叫びたくなる、笑)。 唯一、長谷川氏の実験結果にて、(σを含めた)...... more
Tracked from 来生自然の。。。 at 2012-04-22 06:22
タイトル : 長谷川氏の中性子実験の論文。。。小澤の不等式。。。
小澤の不等式関連のリンクは谷村氏のサイトにまとめられている。 http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/uncertainty/Heisenberg-Ozawa.html そこでも有料版へのリンクしかなかったのだが、 小澤氏ご本人のサイト http://www.math.cm.is.nagoya-u.ac.jp/~ozawa/ からの「分野別主要論文」へのリンク http://www.math.cm.is.nagoya-u.ac.jp/~...... more
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